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雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

クリミア発、モスクワ経由、日本行き(ウクライナ・メモ1)

 クリミア、そしてウクライナが熱い。
 せっかく現場を訪れる機会に恵まれたので、備忘録とともに2014年3月末現在でのおおざっぱな見立てをしておこうと思う。
 とはいえすでにあらかた報道が出尽くしている中で、「ウクライナはどこですか」から書き始めるのも芸がない。従って新聞記事よりもう少し深いことを書いてみよう、というのが本稿の趣旨である。

 専門家曰く、ウクライナといえば政治腐敗である、のだそうだ。ヤヌコビッチ前大統領が仕切っていた与党=地域党(いわく「昭和時代の自民党のような政党」*1、つまりイデオロギー政党ではなく権益の分配を主目的としている)だけではなく、本来権力のおこぼれににあずかれないはずの野党も、なぜか腐敗している。ここでの「腐敗」というのは政治家が賄賂をとること、だけを意味するのではない。賄賂を取った上で、そのことによって簡単に相手方に寝返ってしまう、そのことが国全体の意思決定を極めて不安定なものにしている。
 東ヨーロッパ地域は、過去20年でもっとも経済成長した地域の一つだが、ユーラシア研究所が掲載する服部倫卓氏のリポートによると、ウクライナGDPは2011年現在でもソ連崩壊時の7割にしか達しておらず、1人あたりでは3500ドルでベラルーシ(6530ドル)の半分強。ルーマニア(8150ドル)、ソ連崩壊時には1人あたりで上回っていたポーランド(12660ドル)ともすでに比較にならない差がついてしまっている。政治の不作為と怠慢によって莫大な富(豊かになっていただろうという可能性を含む)が盗まれた、と多くのウクライナ市民がが感じている。
 親欧州派=ウクライナ民族主義=反ロシア派という図式が(ロシア側の宣伝も相まって)かなり固定的にいわれるようになった現在でも、ヤヌコビッチ氏を表舞台に戻そうという声が東部の親ロシア地域でもまったく聞こえてこないのは、この深刻な政治腐敗が周知のものとなったことによるところが大きい。
 同様の理由で、野党勢力の代表だったはずのティモシェンコ元首相を権力に押し上げよう、という声もほとんど聞こえてこない。その意味で、「既成政治勢力の破壊」という目標だけは達成された。
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 こうした中で、昨年の10月末に「ユーロ(欧州)マイダン(広場)」と呼ばれる広場占拠が始まった。ちなみに広場の名前は「独立広場」という。この動きは昨年から年明け早々までは親欧州派による市民運動だったといってよい。ヤヌコビッチ政権を打倒する、というスローガンすら掲げておらず、欧州連合(EU)との連合協定に立ち戻れ、市民を殴った治安部隊の指揮責任者(内相、首相)は引責せよという主張のためだった。この段階で「双方に妥協の用意がなく勢力が 拮抗 (きっこう) して」おり「対立は越年のおそれもある」(12月13日)という分析は、ほぼ穏当なものだったといえる。が、しかし筆者はもう一つの漠然とした「疑い」を持っていた。

 最初に広場を占拠したのは親欧州派の市民で、例えていえば、英語を話し、日本企業で勤めているような人々が、土日にデモに参加するというようなものだったし、実際そのような証言も聞かれていた。一方で、そういう「健全な」デモ隊は土日か仕事の後にしか来られない。警官隊が包囲している中で24時間広場を占拠し続けるには、交代もいるし、大規模な「動員」が必要だ。まあ暇な学生もいたであろうし、失業者を地方から動員しているという話もあったが、それであれば日当もいる。
 真冬のキエフは零下20度まで下がる。人間だけでなく冬季野営のテント、仮設トイレ、燃料、炊き出しも必要で、莫大な資金が投じられているのは明らかだ。その資金はどこから出ていたのか。野党系の寡占企業家(オリガルヒ)などの関与が当初からささやかれていたし、欧米の機関(つまりCIAなど)が資金を出しているという説も当初からあった(この説は現在、ロシア側が大声で唱えている)。当初の狙いは何であり、それは変質したのか、所期の目的を達成したのか、それは今もって不明だ。

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 もう一つは、資金を投じるパトロンが仮にいるとすれば、無制限に金を出し続けることはできない。投資である以上、なんらかの「果実」を手に入れなければならない。逆に、ヤヌコビッチ政権側は、まさに長期化、じらし、引き延ばしによって野党側の息切れを狙っていたのも明らかだった。その中で、最終的に「打開」を図るかもしれないということ、首都中心部に多数の人間が対峙し続けることの危険性、というのを、なんとなく筆者は感じていた。

 そして2月のソチ冬季五輪の舞台裏で、第2幕が始まった。

*1:この言い方は、政治学的に分かりやすく語るためのもので、昭和時代の自民党が腐敗していたという意味ではまったくない。