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雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

「日露戦争、資金調達の戦い」(新潮選書)

日露戦争、資金調達の戦い: 高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)

日露戦争、資金調達の戦い: 高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)


 金融版「坂の上の雲」と銘打たれているが、実際はかなり学術書に近い概説書である。いまのユーロ危機をみても、買い手を集める公募債の「起債」というものがどういうメカニズムで動いているか、素人にはほとんど分からない。
 かつては金本位制であったから、持っている金の量で通貨発行量が決まり、もっといえば、金とリンクしている国の中でもっとも財政が安定している(基軸的な役割をもつ)英国ポンドとの安定性の見合いで発行金利が決まった。
 そのなかで信用のない新興国、日本がどういう形で戦費を調達していったか、天佑にも助けられ、高橋是清の交渉力にも助けられ、戦況も味方し、幾重もの幸運が戦争継続を可能にしたことが、丁寧に説明されている。
 おそらく、本書に書かれていることには新事実はないのであろう。日露戦争の研究はそれなりに進んでおり、研究者にとっては自明の事実がほとんどであろう。
 しかし証券会社出身の現場を知る著者が、あえて丁寧に日露戦争の起債を説明したことにはそれなりの意味があるだろう。それは、著者が自ら書いているような「日本の現代財政との近似性」ではなくて*1、むしろ欧米と日本との間の関係性や立ち位置、新興国と先進国の間の金融外交の範例として読みたい。
 しかし文章もわかりやすく、450ページを越す最近では珍しい大著。まさに労作である。

*1:社会保障費と軍事費を財政破綻の要員として同列に見なして財政危機を論じる著者のエピローグに対しては、小生はかなり抵抗がある。