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雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

福島原発問題についてのメモ

政治・経済・国際 メディア

 東京では原発にからむ流言がひどいと聞かされた。
 いまツイッターチェーンメール原発の危険性を回覧している方々。もし本当にご心配なら、危険情報をネットに書き込む間にも仕事を捨てて遠くへの避難をお勧めする。本当に危ないなら命が大事だ。仕事や学校といっている場合ではないのではなか。ツイッターやメールで政府批判や危険情報を流布してる間に逃げ遅れることになるかもしれない。出国の自由はすべての日本人に保障されている。その間にお早く。

 しかし、人口あたりの交通事故死者数が日本より高い国が圧倒的に多い(米国でも倍以上)ので、海外に逃げたからといって長生きできる確率が上がるかは分からない。
 日本でもついこの間まで交通事故で年間1万人の命が奪われていた。50年間積み重ねれば0.5%のリスクになる(現在は死者が減少しています)。街を歩くだけで生命の危険(テロではなく、車にはねられる)にさらされる国は多い。
 もちろんリスクは減らすに越したことはない。しかしそのリスクは常に定量的にとらえる必要がある。それが科学的な、合理的な立場に立つということではないか。

 それでも不安なら、逃げればよい。政府を批判している場合ではない。お金の問題でもない。少なくとも私は、生命の危険が迫った場合においては、政府や会社(仕事)よりも自分や家族の身の方がはるかに大事だと判断すると思う。

 業務に関係することは語らないつもりだが、しばらく前に福島原発の担当記者だった。それだけに、今回の事態にはほんとうに心が痛い。
 当時も、現場の人は(もちろん経営トップはさらにだっただろうが、残念ながら会ったことはない)もちろん原子力の将来を信じていた。私は電力会社という一私企業が巨大技術を抱え込む(確率が低いにせよ、事故が発生した場合に企業ではリスクを負いきれないから経営的に合理的じゃない)ことに懐疑的であったから、立場は微妙に異なるわけだが、それでもいろいろな話をした。イスラム教を信じていなくても、ムスリムとの対話は可能だ。相手の結論を変えることはできないだろうが、一方で、記者は活動家でも宣教師でもない。きちんと相手の技術やそのバックグラウンドを勉強した上で、知りうる事実(噂や推測は許されない)を読者に提供するのが仕事だから。

 別の視点を。日本が震災一色の間に、リビアは戦争状態に突入し、かねて中東全体の危機につながると指摘したシリアも(残念ながら)急速に不安定化が進んでいる。その中で、原子力をやめる、それは決断だし、悪いことではないと思ってもいる。
 しかしそれは単なる電気代高騰やちょっとした停電だけではすまない。中東の石油争奪に本格参戦したり、北方領土をあきらめてでもロシアに石油・天然ガス供給を頼み込む覚悟が日本人にあるのか。原子力のリスクを避けるという理由でリビアで日本(軍)人が死んでも、それを許容できるのか。
 そこまでしても韓国と中国にある原発のリスクは残ったままだ。脱原発を唱えたドイツは不足電力を隣国フランスから輸入する態勢だが、そのフランスの原子力依存は過半をはるかに超える。
 自然エネルギーでは産業のために必要な電力は到底ペイできない。原子力を使わないことを選択することで中国や韓国に負ける産業が出てくるかもしれない。失業者が大量に出るかもしれない。
 国民が責任を共有できるか。それでもやりぬくのか。
 廃止反対ではない。しかし問題は覚悟にある。

 最後に流言防止のため。福島にいる同僚の放射線線量計の値は、文部科学省東電の測定値と矛盾はない。もし不審がある方は、日本で売り切れているというのなら、韓国や香港でガイガーカウンターを買ってくればよい。それだけのことだ。*1
 福島原発担当としての限られた経験では、10年ほど前の原子炉トラブル隠しが起こった後、東電の発表は「かなり楽観的な評価」、かつ「完全な想定問答を作成しているため発表に時間がかかっていた」*2ものの、事実関係や数値の偽装はなかった(福島県内部告発が寄せられることもあったが、もちろん牽制効果があったにせよ、告発内容への東電の説明はそれなりに筋が通っていたと記憶する。もちろんその内容は報道されている)し、担当者の専門知識や対応力については他を圧して業界トップだったことは間違いない。*3

*1:ロシア人の先生に「ソ連時代、ヒロシマナガサキがある日本人は皆ガイガーカウンターを持って常時線量を測っていると思っていた」という余談を聞かされ苦笑。

*2:逆に言えば、現在しどろもどろの会見になっているということは、想定問答を作る余裕もないということでもある。

*3:それは、もしほかの電力会社の原発で事故が起こったとしたら、いま非難が集中している東電の広報対応よりさらにひどかったのでは、という結論につながりかねないが。