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雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

中東政変を巡るメモ4

政治・経済・国際

 エジプトでムバラク大統領が辞任してから約1週間。エジプトの情勢はいままでのところ、大きく見通しを外してはいないと思うが、その革命の波の行き先がリビアバーレーンだったというのは少々意外だった。
 「意外」というのは、エジプトでの"蜂起"の主因が生活苦にあるとされていたからで、その延長線上ならばアラブの中で貧しい非産油国に先に波及し、体制あ動揺すると見ていたためだ。逆に言えばリビアバーレーンでは他国からの出稼ぎを受け入れているくらいで、目立った生活苦はない。にもかかわらず、支配体制の中に不安定さをもともと内包していたということになるだろうか。
 エジプトの政変の際、ある日本の中東関係者が「原油価格高騰で生まれた富の分配の不平等に対する怒りが、産油国民の中に生まれていることが今後影響してゆかなければよいのですが」と語ったことが思い返される。

 現に発生していることについてメモしておきたい。

  1. エジプトの政権変動は、やはり軍主導で進んでいる。ということからすれば、市民革命ではなく、軍による「無血クーデター」だったんだ、というのは言い過ぎにしても、今回の政変が軍政内の権力闘争の帰結だった、という分析にも一理ある。もちろん市民の力が働いていないわけではなく、市民の力を前に、軍権力が保身のために、大統領という代表者を切り捨てた、ということなのかもしれない。次の焦点は、改正憲法宗教政党をどの程度まで容認するか、ということになるだろうか。軍から民政移管するときに、原理主義勢力の強い脅威にさらされたアルジェリアが、宗教政党を禁止する形で選挙を実施したのはそう古い話ではない。トルコのような複数政党制まで行けるのか…。
  2. カダフィ政権(にとどまらず中東の強権的な指導者)は、メディアを統制した上で、まったく流血への躊躇なくデモの鎮圧を図るだろう、と思っていたが、不幸にもその通りになった。しかし、現実は大量の流血をもってしてもデモを押さえることができず、内戦に近い状況が起こっているように思われる。背景にはリビアの国家形成上の問題点があり、もともと存在していた根強い地域対立の芽の上に、エジプト革命がガソリンをまいて火を放ち、本来火消しの役目を果たすべき部族主義などが機能しないまま(イエメンで辛うじて暴動化していないのは部族の機能が強いためだろうと思う)、大量の流血が続く事態が起こったということだろうか。カダフィ政権が持ちこたえるかどうかは全く予断を許さないだろうが、さらにどれほどの血が流れても、情報統制の下で強行鎮圧を続けるだろうと思う。それができるのが、エジプトのように欧米に開かれた国とは違う、閉鎖体制を取る産油国の支配者の特権だからである。逆に、ひとたびなにがしかの譲歩を行えば、そこで政権は終わる。それがエジプトの教訓だからだ。
  3. より多くの血が流れるのはリビアだろうが、リビアの原油は旧宗主国のイタリアほか欧州向け。日本に影響が大きくなるのはおそらくバーレーンの政変になるだろう。メモ1に書いたが、バーレーンは湾岸産油国の中では、少数派による王朝支配、かつ経済・情報開放政策をとっているという点で、とりわけ不安定な国である。シーア派(80%)の市民をスンニ派(20%)の王朝が支配する構図である以上、ここではいくらでも政情不安が起こりえる。このブログを読む人にとって、シーア派とスンニ派の違いはほとんど理解困難だろうと思うけれど、やはり両集団が混和することは難しいのだ。とりわけ、多数派は少数派に対して非寛容であるものだし。バーレーンは、閉鎖的なスンニ派支配体制をとるサウジアラビアにとって外界に開かれた窓、中国にとっての香港の役割を果たしている。その窓がシーア派に奪われることになると、サウジアラビアの危機感は極限に達するだろう。*1
  4. すでに書かれ始めていることだけれども、バーレーンで仮に多数派のシーア派による共和国が誕生した場合、すぐそばの大国イラン、きわめて親和性の高い体制が誕生することになる。もともとバーレーンペルシャ帝国の一部であった歴史があるし、いまでもイラン人はバーレーンに対し特別の感情を抱いている。イランがバーレーンに対して国家統合の誘いを仕掛けてくる可能性すらある。ここに米国の艦隊司令部(艦船を配置しているわけではなく、あくまで司令部)が存在し続けるということは難しくなるだろう。すぐに湾岸諸国のどこかに受け皿を探すだろうが、もし失敗すれば、ペルシャ湾に対するイランの影響力が大幅に増大し、権威主義の王制をとっている親米の湾岸諸国に、内政・外交双方で大きな脅威となることは間違いない*2。それは米国にとっては悪夢であるし、日本にとっても決して望ましいくない(ただし、日本とイランの関係は悪くはないので、破滅的にはならないかもしれないが、少なくともそのときには石油価格自体が大幅に上がっているだろうから)。

*1:なので、サウジアラビアバーレーン体制を維持するために軍事介入するという観測もすでに存在している。

*2:だからといって、イラン寄りの体制が生まれるわけではないはず。シーア派とスンニ派の間の壁は、政治の舞台ではそれほどに厚い。