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雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

事業仕分け雑感

政治・経済・国際

 どうもノーベル賞を取った人から巷に至るまで注目度(感情的?)が高い「事業仕分け」。
 いつかはやらなければいけないことで、すでに遅すぎる感もなきにしもあらずですが。この背景は結構ややこしい財政問題があるので、箇条書きで書いてみます。説明不足ならご要望いただければ補充します。

  • そもそもの問題は、「税収不足」と、歳入に比べての「支出超過」。その結果としての「赤字国債発行」。

 既知の話ですが、39兆円しか税収が見込めないのに、予算の概算要求が90兆円を超えるというのは、いくら何でも異常です。財務省資料によると、だいたい総税収は50兆前後で、過去最高はバブル経済の1989年度の60兆円。

  • 財政の改善には「税収増」と「支出カット」があり得る

 これも当たり前ですね。

  • 赤字国債の発行は、そろそろ限界に近づいている、かもしれない。

 毎年赤字予算で、国債残高は581兆円。1995年比較で、対GDP比でも倍増しています。ただし、家計と違うのは「無限に繰り越せること」(個人と違って国家は死なないので全額返す必要はそもそもない)と、「基本的に経済は成長する(GDPは増えていく)ので、借金が増えてもそれ自体の問題はない」ということです。ただし、利払いができないと「デフォルト」になるし、国債には満期があるので、そのたびに借り換えるわけですが、金額が大きくなればなるほど、消化(つまり買ってもらう)のが難しくなります。要はちゃんとコントロールできるかが重要。(内債と外債を区別する議論がありますが、内債でもデフォルトを起こせば悪性インフレになり国内の個人と日本国債を買っている金融機関が甚大なダメージを受けます。先の大戦で日本が発行した戦時国債も内債でした)

  • 誤算は、過去20年間、GDPが増えなかったこと。

 先に述べた事情から、日本の国債を巡る状況は、GDP比でみるのがより適切です。しかしバブル経済崩壊の後遺症に悩まされた日本は、世界中の主要国でほぼ唯一(破綻国家などを除く)、ここ10年間あまりでGDPがほとんど増えなかった国です。

  • GDPが増えない場合には、いったん財政赤字増をかぶっても政府の支出を増やし(公共投資増)、あとから景気回復による税収増で取り返すのが経済学上有効とされているが、この10年日本ではそれを行ったのに景気(税収)は回復せず、公共投資は有効でなかった。

 なぜ有効でなかったのか、はっきりと分かっているわけではありませんが、公共投資を行うと、お金は天下の回りもの。受注業者→労働者→雇用→消費と循環して何倍かの比率で実際の経済拡大につながる(乗数効果)とされています。ただ、過去の自民党政権が行った公共投資はあまり有効でなかったんです。

  • 自民党政権が、むだな公共投資をしたから、金を使ったのに景気回復につながらなかった、という議論が誕生。

 ようやくここで民主党うんぬんの話が出てくるわけです。いまのまま金を使っても景気は回復しないと。もともと建設業(個人の住宅建設も含む)への公共投資乗数効果が大きいとされてきて、自民党は重視してきたわけですが、やっぱり効果が出ていないんじゃないかと。たとえば田舎で高速道路を使っても、誰も使わなければ、建設業が潤うだけで乗数効果が出ない、という話。
 「官から民へ」と小泉元首相も言っていたとおり、利益が上がることは民間に任せるのが本来の姿です。特に今現在の公共投資の大きな目的はものを作ることではなく景気回復にあるわけなので、ほかの、たとえば相対的に貧しい層への直接給付のほうが効果的ならば(あえて「子ども手当」とはいいません。富裕層にも給付するので。むしろ最低賃金の引き上げとか)、施設を作るのはやめて、そちらにシフトする方策もあり得るわけです。

  • 事業仕分け」は本来、「事業を切る」ことが目的なのではなく、「より効果的な事業へのシフト」が目的、のはず。

 「スパコンが世界2番じゃだめなんですか」といってナショナリストの憤激を買いましたが、ここまで読んできた方ならおわかりのように、問題は、「その事業が将来どのくらいの果実をもたらすのか」ということなんです。お金がない中で、すべてに金を使うことはできないわけです。国民が「本当に必要」だと思っているのなら、国任せにせず寄付を募ってやるってことだってあってもいいわけです。

  • 消費税を上げただけでは厳しい。

 90兆円を使う前提で、いま国債の新規発行(純増)が34兆円とかいう数字が出ていますが、単純に消費税を1%上げて2兆円というこれまでの例を勘案すると、17%の引き上げが(つまり税率22%以上)必要になりますね。実際には、赤字国債だけでなく建設国債の中にも「ムダな事業」に使われて回収できない支出があったわけなので、その分も勘案しないといけない。あと、高齢化が進んで医療費がどんどん増えていくので、この分も勘案しないといけない。スパコンは作るべきだが、では消費税を上げます、という議論がどこまで国民に許容されるかが重要になります。

  • ほかの税金を上げるのはどう?

 ここ10年ほどで法人税と高額所得者の減税がかなり進んでいます。この増税は一つの選択肢です。ただ、「企業と高額所得者は「金の卵」で、海外に逃げていきやすい(シンガポールに住んでいる大金持ちなんかは典型ですね)ので、国際比較であまり税率を上げると、海外逃避が進む」というのがこれまでの政府当局の説明です。
 たばこ税を上げる、というのも同種の議論なんですが、たばこ税というのには相場がありまして、あまりに高くなりすぎると、「小さくて軽く、高価な」商品は密輸がしやすい。日本の近隣国(どことはいいません)で作ったものを持ち込まれたりして、広汎に流通するような事態はやっかいです。CO2排出税なんかはこれから導入されていくと思いますが…

  • 自分らは金持ちじゃないんだけど、金持ちから取ればいいんじゃない?

 日本の巨大な金融資産の多くは、高齢者が保有しているとされています。高齢者の運用はリスク回避が基本なので、多くが郵貯や生保などに預けられていて、結局民需に回らず国債を購入→非効率な公共事業→景気回復につながらず→さらに国債残高増加、のスパイラルになっているのではないかと。
 なぜ高齢者が多額の資産を保有しているのかといえば、「将来への不安」でしょう。老い先短いのに将来なんてあるかいな、と思いがちですが、歳を取った後では、「これから働いて取り返す」ことはできませんから、入院や医療費、介護などの出費に備えて、実際に必要な金額を上回る貯蓄を保有していることは十分に想像されます。
 これを民間に放出するには、逆説的ですが、「福祉の充実」が有効なわけです。
 将来例え寝たきりになったとしても自分が世を去るまでの出費が計算できるのならば(上限が決まっていれば)、それ以上のお金は冥土に持って行けませんから、生きているうちに使おうとする(消費増)か、いまお金がいる子どもたちの世代に渡そう(生前贈与)という動機が強まります。日本経済は厳しいので、いますぐお金を使ってほしい、というのが政府の偽らざる心境です(内需拡大)。
 生前贈与と相続税の一本化などはすでに部分的に進んでいますが、税制改正は税調の答申、立法措置となると政権交代から数ヶ月でできる代物ではありません。

  • 要するに、予算締め切り前にすぐできるのは「事業仕分け」くらいしかない?

 来月には予算案が完成していないといけないわけですから、1件1時間しかかけられないのもむべなるかな。でもしょせんいま決められるのはすでに決まったルールに基づいている費目の執行停止程度で、法整備や制度改正が必要なものは取り上げられない。もくろみほど支出削減につながらなかったのも、まあ当然と言えば当然ですが。

  • 外国はどうなのよ?

 今年の状況が厳しくなった一つの大きな原因は、いうまでもなく昨年秋からの世界的な金融危機。これまで日本より財政状況が良好だった欧州、米国は、金融機関の破綻を防ぐのを主眼に、金融緩和(金利下げ)に加え、使えるだけの財政資金を投入しており、世界的にお金の量が一気に増えた状態(つまり欧米の財政は急速に悪化しつつある)。 ただ日本は財政がもういっぱいいっぱいなので、今回の景気悪化への財政支出は諸外国と比べても微々たるもの(多少エコポイントとかエコカー減税やってるけど)です。日本のお金の量が増えておらず、欧米のお金の量が増えている(特に米ドル)ので、今現在ドルの価値が下がり、円の価値が相対的に上がる、のは理の当然である、という議論も出ています。
 もう一つの問題は、東アジアの某大国が、完全な変動通貨制でないのをいいことに自国通貨を安く誘導し、輸出産業の維持を狙う政策をとっているという問題があります。日本はこの国と近いので影響を受けやすいが、日本企業もこの国に大挙進出しておりますし…。ただ通貨安誘導しても、国際市場に組み込まれている以上、別の副作用が出てくるはずなのですけれども。そもそも自国通貨が高いのは悪いことではなく、国民の幸せを実現するのが国家のもっとも重要な役割であるということを考えれば、途上国と人件費を張り合って「飢餓輸出」みたいなことは先進国ではナンセンスだと考えます。

 ゆえに、最低賃金=基礎年金=生活保護の給付水準は最低でもパラレルの関係でなければならず、「最低賃金生活保護水準より上げると会社がやっていけない」という理屈は、家族経営までならかろうじて許されるかもしれないけれども、他人を雇用する法人である以上、もはやそんな企業はもはや存続する意味がないのではないか、と真剣に考えなければいけないはずです。