雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

借金申し込み

 小さな事務所なのだが、先日スタッフから借金の申し込みがあった。「そんなの断ればいいじゃん」と言わないで。小さな事務所だし、街中に「むじんくん」が乱立している国ではない。逆に事情を知っているベテランスタッフに去られて困ることのほうが多い。そんな国である。
 もちろん貸すのも理由による。自分の手術のためだそうだ。仕方ない、と思ったが、金額が6000ドル!自分のボーナスの手取りを思わずドル換算してしまった。
この国には健康保険がない。いやあるのだが、十分に機能していない。ちゃんと払われないとか、信頼性に問題があるとか。外国企業の事務所に勤めている人間でも、民間の保険に入っていることなどまずないようだ。
 したがって医療費は全額自己負担。手術は1週間の入院で、命に関わるようなものではないようだが、「ちゃんとした専門医」の値段は万国そう変わらないようだ。日本の国民皆保険は、やはり大きな遺産だった。
ここでも銀行は担保がなければ貸さない。しかもイスラムでは利子を取ってはいけない(イスラム銀行はまた別の取り決めで実質的に融資するようだが、この国はいま過渡期にある)し、インフレで預金金利が年十数%の国で、無利子融資も簡単ではないだろう。もちろん消費者金融やクレジットカードなんてものはこの国にない。貯金というけれど、いきなり給料の何か月分が必要になって、すぐさま払えるかといえば自分にも自信がない。
 いきおい、職場に前借りを求めるのがもっともポピュラーな手段となる。
 聞くと他の日本企業でも前借り要請は珍しくないのだという。「退職金を担保に」貸している会社もあるのだそうだが、退職金だってそんなにない。
 じゃあ仕方ないと思って、東京にお伺いを立てると「ダメです」と。確かに日本でいまどき「ボーナス前借りお願いします」と頼む姿はよほどの中小企業でなければ想像しにくい。「仕事に使う車を買うとか、モノがあるならならいいですけど」って、車なら良くて、本人の身体ではダメってねぇ…。
 じゃあ自腹で貸すしかない。しかし貸すという行為にはもともと、かなりのリスクが伴う。借用書を取り、何年も働いているスタッフであっても、明日から行方をくらますことはゼロとは言えない。まして給与の天引きで払うといわれても、何ヶ月もかかる。その前に小生が離任することになったら、後任には融資を引き継ぐ義務があるのだろうか。この国から日本に送金したら、送金費用だけかかって、返済が進まないんじゃないかetc…。
 というわけで釈然としないが、本人の具合が悪いのだから貸さないわけにもいかない。お金がなければ手術もできないし。では医療費が高すぎるのだろうか、あるいは払っている給料が安いのか…。意識の溝は、深すぎる。