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雑観練習帳

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若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か

若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か


 すでに一部で話題になっていたらしいのだけれど、「丸山眞男」をひっぱたきたい――31歳、フリーター。希望は、戦争。という文章が話題を読んでいるそうだ。
 実はこれに応答した「識者」への再反論けっきょく、「自己責任」 ですかもある。ついでに紹介すると、ブログ「希望は、戦争?blog」もある。
 わたしは今、フリーターではないので、共感や批判も含めて完全なコメントはできないけれど、これはある種の若者の「気分」を反映しているのだと思う。この文章が言わんとするのは、つまり「世情を憂いているあなた。あなたはいまどこにいるのですか。あなたは安全な場所にいて賢しげに(ニートフリーターの)戦争を語っているのではないですか」ということ。その言い回しは中島みゆきの歌、そしてかつて既成左翼の官僚化を批判した学生運動家の台詞そのままだ。

 全学連から「団塊の世代」に連なる学生運動、本当はあれだけの熱狂を生み出した運動が、今の世の中に何の影響も与えていないということはあり得ないと思うのだけれど、その過程で暴力の連鎖があったこともあって、この国では右派・左派いずれの体制派も、かの学生運動の存在を「封印」してしまった。
 もし「体制」のおこぼれにあずかろうと思えば、「運動」に関わるべきではない。「市民運動」の側も、多くが学生運動の過去を持ちながら、シンパシーすら感じてはいるのに、それらとは何の縁もゆかりもないかのように振る舞う。それが「有利」だからなのだ。
 そう、誤解を恐れずに言えば、学生運動の出自というのは、あたかも隠れキリシタンである。

 本来世間で生活していれば、どの立場にいたとしても、大半の人が自らを動かしている政治や経済に対して、何らかの問題意識や批判があるのが自然だろう。しかしこの国ではそれは全く表に出ることなく、今は「沈黙」と「嗤い」だけが支配する(これはリアルな世界だけでなく、ネットの上もそうだと思うが)社会が成立している。
 その負の面はなんだろう。学生運動華やかなりし時代、少なくとも論壇を支配していた人たちは、その成否は別にして少なくとも弱者を発見し「連帯」しようとする意志を持っていたし、その過程で優れたルポルタージュも生まれたのだろう。けれど、今やその意志すら、少なくともマスメディアの世界では絶滅しかかっている。あるのは「統計数字」だけだ。

 23日、福田首相C型肝炎の被害者救済を表明。マスメディアの人間は世論調査の数字を基に、福田内閣の支持率低下が決断に踏み切らせた原因だと指摘した。しかし肝炎対策と支持率に本当に因果関係があるのか。確かなのは一人歩きしている支持率という「数字」だけであって、街頭やネット上に支持や不支持の意見が百花繚乱咲き乱れているわけでもない。
 報道されている「因果関係」は単なる推定やレトリックの類でしかないかもしれないのだが、政策当局者を含む体制の全員がその因果を所与の前提、疑うことのできない事実として話を進めている。単に政治家が密談しているだけでなく、政策プロセス自体が、既にゲーム化している。
 だから、著者の赤木智弘氏が紹介したような、人々の「声なき声(古くさい表現だが)」というのは、既成メディアからはアプローチできない(広告の到達対象として商売にならないので「アプローチする価値もない」)「ブラックボックス」になり、数値化できない故に、政策プロセスに全く反映されることはない。
 おそらくその生の声というのは、ネットの上で飛び交ってはいる。けれど、それはまとまった言論という形にはならず、匿名の投稿による不満の表明で終わる。それでは、体制への打撃は、かつて文化大革命の時の街頭「壁新聞」にすら及ばない。赤木氏曰く、彼らには組織がなく、組織の作り方も知らない、からである。造反有理の声すら上がらない社会。

 いまや、おそらくかつて学生運動で街頭に立ったような一定の若者層が今もいて(これは右派・左派とかそういったイデオロギー的な意味ではない)、例えば「2ちゃんねる」のような匿名掲示板の書き込みをリードしているのかもしれない。かつて街頭や大学でのデモ、ガリ版刷りの機関誌、組合の大衆動員に現れていた若い人々の言論や「寄り合い」の空間は、未組織なままネットの掲示板に移動しているのではないか。かつてペンネームであったものは、いまや匿名のIDに変わっているにせよ。
 大きな違いは、かつての学生運動は指導者を持ち、曲がりなりにもテーゼと理論を持っていた。ネットの世界に住む若者たちが、指導者、その言い方が適切でなければカリスマ、を持つことができるか。それが彼らが日本の将来に影響を与る勢力になれるかの分岐点じゃないだろうか。