雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

アテニ(Ateni)探訪

 シャルドネだ、ソーヴィニヨンだといった国際的な品種を使わず、格付けすら入っていないためにほとんどの日本人は知ることすらないが、グルジアといえばワイン。ワインといえばグルジアなのである。
 その中で同国ナンバー1の有名人、スターリンの生地として知られるゴリの近郊にアテニという村があることはかねてから知っていた。
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 以下古いメーリングリストの投稿を多少引用したい(一部中略)。

 12月24日、クリスマス・イブにわが家で打ち上げ式をやったが、そのときグルジア・ワイン「キンズマラウリ
(Kindzmarauli)」、「フヴァンチカラ(Khvanchkara)」などというエキゾチックな名前をもつ赤ワインに招待した。その美味さは、同席した諸君の記憶に残っているだろう。これぞ、かのスターリンが愛飲したといわれるグルジア・ワインである。

 ところが、同日付のロシアの新聞に載ったエッセイ(Valerii Kadzhaia, "Stalin: ot do ," Nezavisimaia gazaeta, 1999.12.24)によれば、この情報はどうも正確ではないようだ。

 ロシア料理の通として知られるウィリアム・ポフレプキン(William Pokhlebkin)は、最近の「スターリンは何を食べたか」という文章の中で、「どの宴席にも出されて、好まれたのはグルジア・ワイン『キンズマラウリ』、『フヴァンチカラ』、『ムクザニ(Mukuzani)』、『ナパレウリ(Napareuli)』、『ツィナンダリ(Tsinandali)』、『サペラヴィ(Saperavi)』であった」と書いているらしい。つまり、キンズマラウリがス
ターリンの愛飲した酒という通説を裏づけている。

 ポフレプキンの文章についてエッセイの筆者カッジャヤは次のように書いている。
「几帳面にもソ連時代に『モストルグ』(モスクワの高級商店)で最も一般的だったグルジア・ワインを全部並べ上げている。しかし、ポフレプキンがほんの少しでもグルジアに滞在したことがあるなら、グルジアの宴席ではキンズマラウリやフヴァンチカラはまったく飲まれないことを知っているだろう。このちょっと甘口のデザート酒をグルジア人はワインとも考えていない。そう、甘煮果物汁(kompot)と考えている。ムクザニも好まれていない。重すぎ、濃すぎる。1杯、2杯ならよいが、それ以上は飲まれない。」
 つまり、これは食前酒(アペリチーフ)の一種ということになろう。欧州だったらシェリーを飲むところだ。ハンガリーの有名なトカイも、実は本来のワインというよりは食前酒の一つである。
 ポフレプキンはモスクワの高級商店の棚に並んでいるグルジア・ワインの名前を挙げただけで、スターリンが何を飲んだかは実はよく調べずに書いているということらしい。

 それではスターリンは何を飲んだのか。カッジャヤは書いている。
 「スターリンは何のラベルも貼ってないビンを出させた。それは家庭用のワインだった。父が私に語ったところでは、そして父にはその友人で国家保安省の大佐をしていたイラクリ・ムガロブリシヴィリ(Iraklii Mgaloblishvili)が教えてくれたのだが、スターリンが飲んだのは、『アテニ緑酒』、グルジア語で『アテニス・ムツヴァニェ(Atenis mtsvane)』と呼ばれているものだ。ゴリからほど遠くないところにアテニという村がある。5世紀に建てられた教会で有名なところだ。ここでしか栽培されない葡萄の種類がある。この葡萄から明るいエメラルド色の、得もいわれぬ味のワインがとれる。まさにこれこそ、樽に入れて飛行機でスターリンのところに運ばれたワインなのだ。このワインは振動を嫌う − すぐ濁り、まずくなる − ので、揺れないように樽を膝の上に載せ、手でしっかりと掴んで運ばなければならない。それは大佐以上の若者がやることになっていた。イラクリおじはその一人だった。」

 アテニ村はゴリから約5キロの場所にある。ゴリを訪れた帰路、グルジア人の運転手に「ワインで有名な村があるそうだが」と聞くと「それはアテニだ」と快く連れて行ってくれた。探訪したのは10月中旬。しかしまだブドウは収穫前で、購入はできなかった。特に酒屋があるわけでもなく、ただひたすらブドウ農家が道沿いに続く村だった。
 夕方トビリシに帰り、ワイン専門店に立ち寄り「アテニ産のワインはあるか」と訪ねたが、やはりないという。要するにアテニのワインというのは地ビールのようなもので、瓶にはなっていない代物なのだろう。やむなく別のグルジアワインを購入。「最高級。ワインのメルセデスとレクサス」と店員は胸を張るが、それで1本1000円程度。しかし他のどの国にもない、この国にしか産しないワインなのである。
 というわけで、我が家には現在、グルジアワイン2本が眠っている。フヴァンチカラとアジャレシ(OJALESHI)。どうしたものか。