雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

安倍晋三首相の内閣改造

 について何か書けと依頼が来ていた(ほったらかしだった)。「舛添要一厚労相が目玉か」とも聞かれたが、今回について、率直に言ってそういうアナリスト的な興味は持てない。それに日々政局は変動するものであるから、商売でもなければ追っかけていられない、というのが正直なところだ。
 しかし、日本の新聞社の政治部というのは政局は書くけれど政策は書かない、というのが通り相場になっているとよく指摘もされるので、役に立つかどうかは分からないが、かつての政治学徒の立場から少し大局的な話を書いてみたいと思う。

 改めて指摘しておきたいのは、日本の自民党は「資本家(素封家を含む)のための党として生まれ、資本家のための党として現存している」ということだ。ただし、資本家というのは労働者に比べて圧倒的に数が少ないから、民主主義制度の下では、労働者と資本家の利害が対立する多くの場面において、資本家の利益を反映し続ける政党は政権を維持できない。冷戦構造が崩壊し、「社会主義(アカ)嫌い」という感情が消滅してからは、なおさらその傾向は強まった。(フランスを除く欧州の主要国のほとんどで、中道左派政権が誕生したのはこのためだ)

 戦後の普通選挙の下である自民党はそのことをよく知っていたから、しばしば資本家の利益に相反することであっても、「政権を維持する」ために、親和性のある層に支持者を広げるため、あらゆる政策をとってきた。それは農民票取り込みのための(恩恵的な)食管制度であったり、田中角栄に代表される農民出身の人間の幹部登用であったり、(大店法に代表される大手資本規制の見返りとしての)中小商工業者層への浸透であったり(官房長官に就任した、与謝野馨氏に代表される「東京の自民党」は、別に東京の外資とか金融資本の支持をとりつけて当選しているわけではなく、下町を中心とする中小商工業者層の支持を受けているのである)した。これは小泉純一郎という人が首相になるまで、一貫して自民党の基本路線として存在してきたのである。
 もちろん、この路線選択は、社会主義への対抗とか、そういう必要に迫られた便宜的なものであったのだろうが、自民党保守合同以来でカウントしてもすでに50年以上の歴史をその路線で進んできたわけだから、それが「自民党の基本政策」であると思っている人もかなりの数に上る。

 しかし、小泉純一郎という人は、これを「構造改革」の名の下に「衆人環視の下」、壊した。これは郵政民営化の際に典型的に明らかになったわけであるが、旧来の集票構造への決別であった。だから、地方出身の議員は郵政民営化に強く反対したわけである。そして”国民”は、その破壊を熱狂的に支持したわけである。もちろんこれは「テレビとインターネット政治」によるものだ。
 しかしテレビとインターネットというのは「構造」ではない。移り気な大衆は、「構造改革」がワーキングプアを生み、自らの生活が脅かされるとなれば、簡単に背を向けるものだ。テレビやメディアは、しょせん大衆の鏡に過ぎない。小泉改革を支持したのは「B層」だなんだといっても、ネガティブキャンペーンに代表される”広告戦術”だけで永遠にだまし続けることが可能なわけではない。部分的にせよ、政策の裏付けがなければ、出てくる票数というものが維持し続けられないのは当然だ。
 実際、自民党の獲得票数は、前回の郵政解散を除けば、ここ20年来減少の一途をたどっている。議席数に響かないのは、小選挙区制の導入と(これは定数是正とセットになっているので、自民党にとっては功罪両方がある)投票率が低下傾向が続いており、公明党選挙協力の影響力が増しているためだ。これは別に取材をしなくても、選挙の詳細データを分析するだけで一目で分かる(ということは、自民党の人たちも骨身にしみて分かっているはずである)

 安倍晋三首相は「戦後レジームからの脱却」をうたった。しかし現実に政策となって提示されてきたのは、家電リサイクル法PSEマーク)であり、ホワイトカラーエクゼンプションであり、農水省と「年金問題」への対処の不手際に代表される、目を覆うばかりの保守政治家のモラルの低下である。これでは支持したくても支持できない。資本家と外資が支持するかもしれないが、外資日本国籍を持っていないから票は出ないし(笑)、資本家はもともと少数だ。
 しかも構造改革の名において、自民党の主要な支持者だった中小の商工業者は大手チェーン店の攻勢で壊滅、地方の土建業者は地方交付税の削減ですでに虫の息である。「再チャレンジ」政策は唯一安倍政権浮揚の命綱たりえたかもしれないが、具体化したのは150人のIII種公務員の採用だけ。最低賃金の引き上げも満足に行えない状況で、相手へのネガティブキャンペーン以外の何をもって国民への支持を広げようとしているのだろうか。あとはそれこそ「戦争しかない」。(大げさだが、超弩級の外交的勝利以外で、政権を浮揚させる政策はないように思える)。
 北朝鮮とあす戦争できるわけでもないのに、「憲法改正」が票になるはずがない、ということくらい、かつての自民党のリーダーたちは分かっていたはずなのだが。仮に「拉致被害者問題」が全面解決したとして、おそらくそれでも、政権浮揚の効果は限定的に過ぎないだろう(逆に言えば、この問題は政争の具にすべきでない話である)。

 結論として、厚労大臣を誰がやろうとも、中期的に見れば、現状の政策パッケージを取る限り、すでに安倍政権、というより自民党の命運自体が尽きている。仮に起死回生の逆転を狙うならば、労働分配率を上げて、もっとも票数のパイの大きい都市サラリーマン層らへの恩恵的政治を行うことしかないが(もっとも外資が嫌う政策だろうが)、それをできるだけの度胸が安倍晋三首相にあるとは思えない。