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雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

辻出紀子さんのこと

呟き

 ネットサーフィンが得意な同僚が「この事件知っています?」と見せてくれたページが、辻出紀子さんの失踪事件*1だった。
 もう辻出さんがいなくなって10年近くなる。自分は失踪前の彼女とご飯を食べたことがある。むろん2人でではない。彼女には婚約者がいたから。
 10年前の夏休み、彼女が訪れたのは婚約者と自分がともに働いていた決して大きくもなく、小さくもない町。ちょっとした居酒屋で、幸せそうに語り合う(そうでもなかったか。仕事の愚痴をこぼす彼氏に彼女は「なら辞めちゃいなよ、一緒に(タイに)旅に出よう!」なんて話していた)2人を見て、ひどく嫉妬したものだ。
 それから事件が起こったのはそれから遠くない日のことだった。自分は新聞のベタ記事を見て、ただならぬことが起こった(記事にはそう書いてなかったけれども)ことを知った。
 親友でもある婚約者の不幸を傍らで見ていることはできなかったから、婚約者と2人で彼女を探しにも行ったし、その縁で紀子さんのご両親にもお目にかかったこともある。だから事件について、公表された以上のことも多少は聞いた。警察の初動は見る人が見ればミスと言っていいものだったかもしれないけど、それはそれ、精一杯努力もして捜査もされたのだとも信じている。
 それでも彼女は見つからず、いぜん事件の真相は闇の中に包まれている。法律は法律だ。しかし、彼女を知るもの全てが、記憶の中に事件を留めている。伊勢の海沿いの町で起こったこと、それは関係者全てに忘れられない、いや忘れようもない。自分には何もできないのだけれど、三重と三重に縁のありそうな人には、必ず事件のことを語る。

 あれから10年になる。僕も、彼も、少しずつ歳を取った。歴史にifはないけれど、事件がなければあり得たはずの人生が確実にあったんだ。