雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

独裁の懸念はないだろう、がしかし…

 日頃あまり書かないテーマについて軽い気持ちで書いたメモが多くの人に読んでもらえた(本当は民主党の人に読んで欲しいのだけど…)ようで、コメントやトラックバックをいただいた方、どうもありがとうございます。

 私の本業は個々の選挙区の勝敗の分析をすることでして、正直いって、全国的な獲得議席数をもとにああだこうだと論議するのは職責の範囲外であり、じゃあ日本の選挙について、お前は仕事を離れてまで興味があるかというと、「一国民以上の興味はない」というのが正直なところです。
 まあ実際、昨年の参院選では「小泉首相だったにもかかわらず」民主党が圧勝しているわけですし…(それゆえにに憲法改正の発議は幸か不幸か”民主党が分裂しない限り”困難)
 もともと小選挙区制というのはこんなものであって、それでも比例代表180議席があるから、この程度の議席バランスになっているというのも真実。比例代表制には比例代表制特有の弱点があります。(拘束名簿式では当選する候補者が政党の都合だけで決まってしまうし、非拘束名簿では投開票が煩雑になりすぎる)
 次に、辞めると言っている小泉首相が公約を裏切ってまで任期を延長し、さらに長期にわたって小泉政権が高い人気を維持したまま継続していくという可能性はどうか。
 その可能性は高くないし、それを前提にした「独裁」うんぬんの議論は、あまり意味がないように思えます。
 また、小泉政権の後継者が、小泉首相と同様なポピュリズムを器用に演じられる役者か?といえば、現状の顔ぶれを見る限りは、それはなかなか困難であるように思えます。

 さて、一部でいただいた「社民主義的支柱を立てたとして、それで小泉・竹中には勝てるかどうか怪しい」との意見、これはどうでしょうかね。歴史にifはないわけですから、あまり意味がないような気がしますが…

 私がもし勝敗を論じる価値があるとするなら、単に今回総選挙というだけでなく、もう少し長期的なスパンの「勝敗」を見てみたいと思います。
 これは「踊る新聞屋ー。」さんが紹介する識者各位がすでに記していることですが、今回露呈した民主党の弱点は何か。
 それは戦後一貫して「政策を持たない政党」だった自民党が、曲がりなりにも初めて新自由主義の理論的背骨を立てて戦った(後述しますが、それ故に自民党の存在意義そのものに関わる内部分裂を。今まさにもたらしつつある)小泉純一郎総裁に対して、まったく対抗しうる政治理論上のバックボーンを持っていないことを、白日の下にさらしたことでした。
 そして、バックボーンを持たない政党が、野党として、政権与党に勝ち政権交代をなし得ることは、日本ではもうないでしょう。かつての社会党(そして今の社民・共産両党)のように、抵抗政党に徹するなら別ですが。
 そして与党と完全な差別化をし、なおかつ新自由主義に対抗しうる、そんなバックボーンがありうるか。それは現状ブレア首相やシュレーダー首相に代表させる欧州的な社民主義しかない(注:これは必ずしも「大きな政府」を意味しないが、別に小泉・ブッシュ流の「小さい政府」に同調する必要はない)。

 しかも、「社民主義=労働者=労組」のうち、「労働者だからイコール労組だ」という一部の認識について。
 これは単純な語感からの誤解、と言ってしまいましょう。(それだけ「労働者」という日本語の語彙に手あかが付いてしまったということでしょうが…、とりあえず私のワーディングでは”労働者=働いている人で経営層にいない人全般”くらいの意味合いです)

 で、「現在の民主党が労組に組織運動面で依存している」のは「事実だが、方法論として全く誤り」だということを私は主張しているわけです。
 つまり、労組組織率が三分の一を大きく割り込んでいる現在、未組織労働者と組織労働者の利害が対立する場合には、政権を目指す政党は数の多い方、未組織労働者の利益を取るのが自然でしょう。(まあ民主党候補の選挙事務所に行くと連合傘下労組の人が一杯いて、ポスター貼りとか実務一切を取り仕切っているのが実態だからなあ…)

 だからこそ、組合に依存しない労働者の党、ということで言えば、前回簡単に書いたような政策パッケージを取る必要があるわけです。職業別労組ならともかく、現状の企業内労組は組合員にとって魅力が失われてきていますから、これからそれを先祖返りさせて、組織率を向上させるなんていうのは恐らく困難でしょう。

 「民主党は労働者の党、ホントに?」という疑問符について。
 ではサラリーマン主体の労働者の支持を得られないとしたら、民主党はどのセクターの支持を得るのでしょう?経営者層でしょうか?あるいは農民?中小自営業者?いずれも自民党金城湯池(これからはそうならないと思いますが)です。
 つまり個人の投票行動とは別にして、野党第一党は政権を目指す宿命がありますから、層として「与党を支持しない、与党が取り込めていない社会階層」を確実に獲得していかなければならない宿命を負っていること。現状「労働者の党」になっていないとしたら、ならなければいけない、ということなのです。


 最後に、今回の選挙結果は、民主党より自民党により深刻な内部相克を生むでしょう。あまりに勝ってしまったが故に、逆に不幸が生まれているのではないか。
 正直なところ、今回小選挙区で戦った自民党の代議士は、今回の選挙で勝った気がせず(というより、「なぜ勝てたのかさっぱり分からない」と首をひねっている)、「小泉さんがいない」次の選挙でどうしたらいいか途方に暮れている、というのが実態ではないかと思います。
 「改革支持」を前面に出して戦った自民党代議士は、人数的には全体の「ほんの一部」。
 他の大多数のメンタリティは(特に地方選出の代議士は)、実のところ造反組と大差なく、実は郵政民営化反対だったりして、ただ「人気のある首相に郵政だけで反対する勇気もなく」、比較的に前向きな人でもせいぜい「改革推進」は「民主党候補退散に役に立つ呪文」程度の認識しかなかったのが実相でしょう。
 しかし、小泉首相がもし、「言ったとおりに本当に改革を進めたら」、実際に掘り崩されるのは、かれら自民党代議士が政治人生の全てを賭けて育んできた業界団体などの支持基盤。
 「風なんてどっちに吹くか分からないし、それより当選には旧来の支持基盤が大切だ」という、地方選出の方を中心にした代議士の多くが心の内に秘めている声が「小泉首相が退陣したら」一気に再噴出するはず。
 そのときに生まれる今回初当選の「小泉チルドレン」との相克は、党分裂の可能性をはらむ本当に深刻なものとなるはず。
 今回の選挙ではなく、そのときが本当に「自民党がぶっ壊れる」時になるはずです。