雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

福知山線事故をめぐるメール議論

 某氏と携帯メールで議論になりました。
 示唆に富む論点が多く出ましたので、エントリを立てることにしました。メールでのやりとり故、不適切な表現があるかも知れませんが、できればご容赦願えれば幸いです。

 個人的には、メディア論としては「エキスパタイズ」(これは造語なんでしょうか。専門性、専門家の集積くらいの意味です)という言葉が、今回の事件に限らず、今後の報道の鍵になると思います。
 例えば、

 などのときどうするか。
 これらのテーマは日本では極めて発生頻度が低い。
 故に日本の商業メディアは十分な準備ができない。
 故に、いざこういった起こったときにレベルが低い取材しかできないか、あるいは「たまたま詳しい記者がいた」というような偶然に依存するしかないのが実態なのです。

 例えば戦争取材。欧米大手メディアには戦争専門の記者がいると聞いています。世界中の政治に関与する超大国ならではというべきでしょうか。日本メディアも全世界的なレベルで展開すれば(現状でも夢物語な上に、さらに遠い夢になりそうですが)、そういうある種の「効率化」が可能なのかも知れません。
 しかし現状でも海外からの写真・映像=現場取材の大半をAPロイターCNNといったアングロサクソン資本の海外通信社に依存している。
 それを追認し、欧米追随をさらに強化するべきと考えるなら別なのですが、そうでなければ、そういった組織から得られるニュースは、世界の覇権を握るアングロサクソン側の視点から抜け出すことは非常に困難になるでしょう。
 前置きが長くなりました。一問一答をお読みください。

QJRへの強制捜査は必要かな?
A一般論として、運転手の勤務状況を把握するとか、証拠保全は必要では。ただ(資料を)持っていかれると、(強制調査権のない)国土交通省の、航空、鉄道事故調査委員会の調査はやりにくくなるね。
 アメリカのNTSB(筆者注:National Transportation Safety Board=国家運輸安全委員会)は、(優先的な)調査権と免責特権があるから、やりやすい。柳田邦男氏がこの問題について書いているが。刑事免責は(日本の場合)遺族感情(の問題)があるが、関係者の正確な証言を得るには(関係者の刑事免責が)必要、とアメリカ人は考えている。

 筆者注:TASK・鉄道安全推進会議のNTSBについての記述によると、NTSBの調査と訴訟手続きとの関係については「NTSBが収集した証拠、その証拠に基づく事実認定は民事(この規定は刑事にも準用されているので、民事刑事両方という結果になる)訴訟の証拠として使用または引用してはならないと規定されている(NTSB法第1903条第C項参照) 」と記載されている。この考え方は御巣鷹山でのJAL123便墜落でも適用され、刑事責任を追及するための日本側のボーイング社を対象とする捜査に対し、米国側が協力を拒否したのは記憶に新しい。


 その規定の趣旨・理念について同ホームページは、


 NTSBの目的は事故原因の究明と事故の再発防止による運輸安全の推進である。事故の原因の究明のためには、事故について真実を知る必要がある。

   しかしその一方でNTSBへの証拠の提出及び証言がそのまま自己の責任追求にに用いられるというのであれば、誰もNTSBに対し事実を述べなくなる。
  そこでNTSBが真実の情報を得ることができるために、法律的に無答責を保証したのである。日本では航空機事故に関する刑事事件において、航空機事故調査委員会の報告書が、そのまま検察側の証拠として裁判所に提出されるのと比べて、非常な違いを感じる点である。
 
 

   それでは、事故の被害者が鉄道会社相手に訴訟を起こすときに、NTSBの報告書は全く使われないのであろうか。

   被害者の代理人弁護士は容易にNTSBの事故報告書を入手できるのは前述のとおりであ
る。前記のNTSB法第1903条第C項の規定では、民事訴訟においてNTSBの事故報告書を証拠として提出することは許されないが、その報告書に従っ
て、主張を行い、証人を申請・尋問すれば、ほとんどの場合、NTSBの事故報告書と同様の結果を得ることができるとされている。 


 


と説明している。筆者が本ページを読んだ印象では、同会議はNTSBの組織や中立性には賛同しているが、その背景となる
刑事責任追及よりも原因究明を何より優先させるという原則と、それに伴い必須となる刑事免責の導入には否定的なように思われる。
(筆者注終わり)



Q確かに。しかし「悪質」かどうか分からない状況で強制捜査する必要あるの?任意で、(国交省の)事故調と共同でやればいいやんか。
A悪質かどうかわからない。でも善意と確定できないから、強制(捜査)にするのではないかと。万一悪意で(証拠を)シュレッダーかけられたら終わりだから。捜査(する立場)の言い分ですが。

 (仮に関係者の刑事)免責があれば、証拠隠滅のモチベーションはなくなると思います。

 (それは)「遺族(感情)」が許さない。というのが世論の言い分ですが。

 私は応報主義はどうかと思いますけど、今はそういうのはネット(で流れる世論)では流行らないでしょうね。




Qまあ、任意でも拒否できないやろ、流れ的に。僕は、サツクラブ(注:県警担当の記者で作る「記者クラブ」)が「捜査しないんですか?」と騒ぎまくって、兵庫県警は、ラッキーと思いつつ、やらなきゃ「捜査怠慢」と言われるから、やってると、断定(笑)マスゴミは、沈める船を捜してるわけだ。

A違うなぁ。遺族がどう思うか、遺族が処罰を望んでる(から強制捜査をやる)、という(のが)当局の判断でしょ。

 大抵の交通事故で証拠の面では逮捕は必要ない。けど(警察が逮捕を)やっているのは、マスコミがたきつけたわけではない。

 過失は不可罰という刑法(学)の原則があるのに、業務上過失致死傷罪がある理由を説明するのと同じです。JRを弁護するならそのくらいの論理は必要ではないかと。


筆者注:筆者は法学部卒ではないので、正確な記述はご容赦いただきたいのですが、業務上過失致死罪ではない、単なる過失致死傷罪の罰則が傷害罪や殺人罪に比べて極めて軽いことは、「人
間の故意によるものが罪であり、過失は(処罰の対象となる)罪ではない。また、罪が犯された場合、それに報復するのではなく、矯正のために罰を与える(逆に言えば人間は誤りを犯すものである=過失は矯正できないため、罰を与えない)」という考え方に拠っていると理解しています。




Qなるほど。遺族の声や世論を気にしているのは同意。しかし、それはマスゴミによって増幅させられているのではないかと…

 ともかく、ホントの理由が何であれ、(マスコミは)原因は未熟な運転手によるスピード違反と断定(笑)無責任だよナ〜

A(しかし)増幅するのがメディアの役割そのものです。(メディアの謂は)媒体なんだから。マスメ(ディア)だろうが2chだろうが同じではないですか。

 (個人的には)睡眠時無呼吸症候群(SAS)かどうかは分からないが、運転士は病気だったと思いますよ。いくら若手といったって、自動車じゃないんだからさぁ。

 在来線では、(運転士は)速度制限標(今回の70キロ制限の標識のこと)は、全部覚えて、さらに目隠し運転の試験に受からないとその路線に乗務できないルールのはず。標識見て運転してるわけじゃないですから。

 安易な断定はおかしいというのは同意。まあ県警もそのレベルから始めざるを得ないでしょう。(大規模鉄道事故の)経験者なんていないわけだから。




Q増幅がメディアの役割も同意。しかし、駄からと言って、予断を垂れ流していることは正当化できないのでは?
A民放テレビは騒ぎすぎだし偉そうで好感もてません。NHKはマニアが居るのか、いい識者を独占して、昨日は他局より断然でしたが。

 識者が断定できないことを結論的に書いてはいかんですよね。「事件」ならやれな(=当局の見立てがないと書けない)くて、「事故」ならいい(=許される、書き得、流し得)というのもおかしい。