雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

ライブドアにしておけば…

 「ソフトバンク系の会社にニッポン放送の持つフジテレビ株を貸す」というニュースが24日に流れました。報道によると「ホワイトナイト」「ライブドアよりまし」とフジテレビ社内には安堵の空気も流れたといいます。

 しかし冷静に考えてみましょう。そもそも今回のライブドアによる買収劇は「小が大を呑み込む」という図式でした。確かに、ライブドア堀江社長はフジテレビの経営権へのコミットが最終目的であったことを公言していましたが、フジテレビの時価総額は6000億以上に上り、ライブドア時価総額(2千数百億)を大きく上回っています。
 国に例えれば、自国の国土を大きく上回る植民地を獲得するようなものでした。
 こういった買収では、往々にして、社風などの面で買収した側が、買収された側の空気に「染まってしまう」ことが多いのです(イギリスにインド料理屋が多いようなものです)。特に、ライブドアの場合はその公算が大きかったのではないでしょうか。堀江社長が自ら会見で明かしたように、ライブドアには放送に関するノウハウが皆無でしたし、しかも堀江社長はフジテレビの娯楽番組にレギュラー出演、フジテレビの空気が好きだったようです。
 マスコミの端くれとして見ても、新聞社以上にテレビ局の運営は複雑です。ネット局の資本体系も複雑ですし、各社間で給与も違います。系列の制作会社との関係もあります。テレビ局の運営は、野球、サッカーの中継一つとってもノウハウの塊なのです。
 報道で何度も指摘されてきたことですが、ニッポン放送、フジテレビを買ったとしても、買収先の社員を引き留めることができなければ、明日から放送ができず、放送事故連発で虎の子の免許すら取り消しという事態もありうるのです。
 そういう状況なのは明らかなのですから、面従腹背、いやむしろフジサンケイグループの社員が一致団結してその状況を逆手に取ることで「ライブドアフジサンケイグループ化」することも可能だったかも知れないのです。まぁ日枝会長がその首座に留まることは難しかったと思いますが…

 一方、ソフトバンクの時価総額は1兆5千億以上あり、フジテレビの倍以上です。しかも、M&A資金繰りにもともと難のあるライブドアと違って、ソフトバンクにすればフジテレビの過半数の株式を自力で購入することすら難しくないのです。
 仮に(全てが想定の域を出ないのですが)そこでフジテレビがソフトバンクの傘下に入ることになれば、「傘下のフジテレビ」の流儀を尊重する義理は何もなくなります。ソフトバンク流の経営方針が貫徹されることは想像に難くないでしょう。まさに「呑み込まれる」のです。

 確かに現在の貸し株は1割強にすぎません。しかし現在のソフトバンク側の出資比率だけを捉えて「傘下入りはなく、業務提携でもフジの主導権が握れる状況だ」と、もしフジテレビの首脳が考えているとすれば、それではソフトバンクは何のために安くはない貸株料を払うのでしょう。ライブドアへの嫌がらせだけでは説明が付きません。
 そもそもソフトバンクにとって、ライブドアとではIT業界の実力で横綱十両くらいの開きがあります。
 では、突然「フジサンケイグループへの奉仕の精神」がソフトバンクグループを突き動かしたのでしょうか。それはあまりに脳天気、かつ自意識過剰なな想定と言わざるを得ないのではないでしょうか。
 
 私も古くさいメディア企業の一社員として、フジサンケイグループに土足で踏み込んできたライブドアへの感情的な反発が強いこと十二分に理解できます。
 しかし、ソフトバンクグループを引き込むことで、もし「敵の敵は味方。毒を以て毒を制した」的なアイディアに酔っているのなら(実際経営的に全くの素人ぶりを露呈した経営陣だけに酔っていそうで怖いのですが)、それは大きな誤りとなり、高い代償を払うことになるのではないでしょうか。

 このことは我々にとっても人ごとではないのです。堀江社長は確かに「メディアを殺す」と公言して反発を買いました。
 しかし、忘れてはならないのは、ソフトバンクは「メディアを殺す」と公言したことはないかもしれないが、一方で「メディアを殺さない」とは一言も言っていないということです。
 そして、経済的な動きの速さを決めるのはなんと言っても動かす資本の大きさなのです。その大きさはライブドアソフトバンクでは比較になりません。
 ひとたび彼らが決意を固めたら、ライブドア傘下になるよりも速やかに既存メディアが「殺される」、その終わりの始まりになるかもしれないのですが…