雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

私の自己責任論

 私の好物は生ガキとレバ刺しである。好きで好きでたまらない。
 でも何しろ生ものなので、日本以外では、世界中どこでも食べられないだろうと勝手に確信している。

 ある日、かつて私が住んでいた海に面した街で、食中毒が発生した。
 うちの会社の近くじゃん。会見で「○人が病院で治療を受けた、いずれも症状は軽いという…」って感じかな、くらいに思ってた。原因食品は、生ガキ。なので菌はSRSV=小型球形ウィルス(今はノロウイルスというのですよね)。で、最後に「店への営業停止などの処分は?」保健所「処分はなしです」

 そうなんである。「生ガキにあたる」という原因は、ノロウイルスの付着。
どれだけ店の衛生管理をしっかりしていても、カキにウイルスが着くことを防ぐことは不可能。
 だから「店に責任はない」。よって「処分はしない」。

 ある日、別の大きな街で、同じようなカキの食中毒があった。店は知る人ぞ知るカキ専門の名店。「カキが食べたければこの店に行け」というくらいの。
 そのとき、ノロウイルスで他県の老人保健施設では死者が出ていた。その街の保健所は、機械的に店を営業停止にした。知人によると客は離れ、その店は大きな被害をこうむったという。
 生ガキであたる人間がいるのはカキを食べる人間誰もが承知している。防ぐ方法がないのも周知だ。その上で頼んでいるわけだ。

 もし店が営業停止を避けたいなら、店の最後の対策は生ガキをメニューから外すことしかない。
 たとえ私がリスクを負った上で「カキを食べたい」と思っても、それを食べる機会は永遠に奪われる。

 しばらくたったある日、ある全国紙に「レバ刺しにカンピロバクター」の記事が踊った。特ダネ扱いだ。
「レバ刺し」食中毒のおそれ―表面洗っても内部に菌―

 「レバ刺し」として食べられている生食用の牛の肝臓に、下痢や腹痛などを引き起こす食中毒菌カンピロバクターが存在することが、厚生労働省研究班の調査で分かった。
 肝臓表面の洗浄だけでは除菌されないため、厚労省は、抵抗力の弱い高齢者や乳幼児が食べないように注意を促すことを、近く都道府県などに通知する。
(中略)ただ、カンピロバクターは加熱すると死滅するため、厚労省は「レバーの内部までよく火を通せば、食中毒の危機はない」としている。

アンタ!
 レバ刺しに良く火を通したら、レバ刺しじゃなくなっちゃうでしょ!

 実は、この原稿の末尾には、申し訳程度に「カンピロバクターは重症化するケースは少ない」と書いてある。

 だから、苦情を言ったら、きっと「ちゃんと書いてある」って言い訳するんだろう。
 で、厚労省は「注意喚起をしたに過ぎない」と言い訳するんだろう。
 でも、記事が正しいかどうかは別にして、この記事が出たことで、レバ刺しを食べられる店は確実に減る(かもしれない)。

 「生ものなんだから、腹壊すかもしれない、でもそれでもいいと思って頼んでるんだよ!」ってこちらが言っても、焼肉店員は首を横に振るばかり。
あーあ。マスコミのせいでまた味覚が一つ減る。

 この記者はレバ刺しに恨みがあるのか、あるいは特ダネと引き換えに味覚を売り渡す先棒をかついで恥じないのだろうか。あるいは世間を動かしたことに酔っているのか。

 小さなことだけれど、身の回りで起こっている出来事を大事にしたい。身の回りで勇気を持ってまっとうな判断をし、まっとうな仕事をしている人を応援していきたい。「自主・自立・自尊」を尊重したい。
 自己責任で、好きなことやればいいじゃないか。
 当然必要な規制も、社会制度もあるだろう。でも、国に要らぬおせっかいまで焼かれたくない。

 つまらないようだけれど、それがこだわりなのだ。