雑観練習帳

ニュースの現場で思うことつれづれ

東は東、西は西…(3)

 1月22日、ウクライナのユーシェンコ新政権は発足した。ウクライナ分裂の危機は当面回避された。
 しかし、前途は厳しい。ウクライナの一人当たりGDPはインド並み。民主主義の安定に必要な水準には遠い。
 この中で急速な西欧への統合を進めるとしても、まず隣国スロバキアハンガリーの水準に追いつくだけでも並大抵ではない。現状では、バルカンのルーマニアブルガリアの水準にすら至っていないのが実情だ。
 急進的な経済改革は弱者への痛みをともなう。ポーランドから15年遅れの経済的なショック療法が、国民(特にユーシェンコを支持しなかった東部の)に受け入れられ続ける保証はない。西欧の処方せんを得て始められたロシアの経済改革が結局中途半端に終わり、オリガルヒア(新興実業家)を肥え太らせるだけで、プーチン大統領の強権的な政治手法に期待が集まったことも記憶に新しい。
 そして、経済改革が達成されたとして、仮にEUへの経済統合が進めば、確かに安い労働力は武器になるだろう。
 しかしそれによる経済成長は恐らくはフランス、ドイツ経済の犠牲によるものになる。特にドイツは、旧東ドイツ地域の深刻な失業と経済低迷を抱えている。両国にとって「ロシアからウクライナが離反するのは悪いことではない」が、「ウクライナが西欧経済と統合され、農業と工業資源を兼ね備えた強力な大国として現れる」ことにはジレンマがある。

 ロシアにとってはどうか。現在のロシア経済は実質的に産油国経済そのものである。その主要輸出パイプラインウクライナを経由していることは広く知られている。さらに、ロシア国家の歴史的起源はキエフルーシ(現ウクライナ)にさかのぼる。ロシアにとって、ウクライナが離反することは、沖縄が独立するというものではなく、東京にとって、奈良を含む関西圏が離反するのに半ば近いかもしれない。ロシアにとっては死活的な利害を持つ地域である。
 それだからこそ、プーチン大統領は他国ウクライナの選挙にあそこまで介入したのだ。せざるを得なかったのだ。かつてのソ連書記長、フルシチョフウクライナ人、ブレジネフはウクライナの統治で実績を上げ、頂点に登り詰めた故事もあるが。
 しかし、その介入は結果的に完全に失敗に終わった。これは誰が何と言おうと事実である。ロシアにとっては致命的に大きい痛手である。今後どうするか、大統領は毎日頭を悩ませているはずだ。

 さて、傍観者になってみよう。ロシAの立場からは、考えられる今後の政策目標は3つ考えられる。
1.ウクライナの西欧との経済統合の進展は許すが(ここまで大ごとになってしまったら、正面切って反対はできない)、ロシアとの「特別な経済関係」を維持するよう求める。
2.ウクライナをテコにロシアのEUとの経済統合を進める。
3.ウクライナNATO加盟はなんとしても阻止する。
 特に3.が重要だろう。ウクライナNATOに加盟すれば、NATO加盟国とロシアが国境を直接接することになるからだ。しかも、ウクライナは平原で、遮るものはなにもない。かつてナチス・ドイツ軍は、ここを越えてスターリングラードまで攻め込んできたのだ。
 賢明な方なら、「今どき西側から東に攻め込む国などない」、というだろう。しかし東アジアを例に見れば分かるように、政治というものは日々に変化していくものである。
 そして、少なくともこれまではそうだった。第一次大戦の後も、「二度と世界大戦は起こらない」と皆が信じた。

 今度は保守的なロシア人の立場になって考えてみよう。
 ソ連はドイツとの戦争で2000万人以上が戦死している。実に人口の1割を越える数。そして、ようやくベルリンの西まで防衛線(まさに"カーテン"であるを進めることに成功した。しかしゴルバチョフの「せいで」国境線はポーランドの東側にまで後退。さらにベラルーシ(奇しくも米国のライス国務長官が先日"圧政の前線”の一つに挙げた=親露、しかしルカシェンコ大統領の独裁政権=)とウクライナを失えば、防衛線は第一次大戦のブレスト・リトフスク条約のときよりさらに後退することになるのだ。しかもヨーロッパに潜在的な友人はなく(ポーランド人のロシア人嫌いはつとに知られている)、経済は病み上がりで、統治機構も不十分。まさにこれは「悪夢」なのである。

 おそらくロシアは今後、「ありとあらゆる可能な手段を使って」ウクライナの政治過程への介入を繰り返すだろう。米国、ドイツを中心とした欧州も同様だろう。
 それはどっちが正しいかとか、ロシアの介入はけしからんとか、そういう好悪や倫理の問題ではない。ロシアにとってみれば、自分の国の存立のために、(政治的に、あるいは軍事的に)介入しないわけにはいかないのだから。
 ただしその結果は変えられる。妥協が成立し、よりマシな結論が生まれるかもしれない。さもなければ血が流れるかもしれない。、どちらかしかない。
 好むと好まざるとに関わらず、東欧は世界の大国のゲームの舞台にならざるを得ない宿命を負っているのだから。